【判例研究】荒川民商事件(最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定 刑集27巻7号1205頁)

書写山 圓教寺

税理士試験受験生応援ブロガーくまお(@kumaco55)です。

私が授業で発表した判例報告をブログ上で公開します!
こんな内容で恥ずかしくないのかというご意見もあるでしょうが、法学ど素人の大学院生による奮闘記です。
いま思えば、修士論文を書くように引用をつければ練習になってよかったのにな~と。
これから大学院へ進学する皆さんの参考になれば幸いです。

第1 事実の概要

荒川民商事件(最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定 刑集27巻7号1205頁)

1 被告人

X(プレス加工業を営む者)

2 起訴内容

所得税法234条1項、242条8号(現在の国税通則法127条2号)違反。

3 事件経過

被告人Xは、昭和41年9月12日、荒川区内の自己の工場で、荒川税務署の職員が昭和40年分所得税確定申告調査のため質問し、帳簿書類の呈示等を求めたのに対し、『何度話しても同じだ』『生活の保障がない限り答えられない』『調査はさせない』などとどなったり、職員の腰を押すなどして、質問に答弁せず、検査を拒んだ。

4 被告人の主張

所得税法の上記質問検査権規定については、それが不当解釈と濫用の危険性を持ち、犯罪構成要件規定としても漠然不明確である等の理由により違憲である。

5 審理経過

(1)1審:無罪・国側が控訴(1審判決は法令の解釈適用を誤ったものである)
(2)控訴審:有罪・上告(Xに罰金刑)
(3)上告審:上告棄却

第2 裁判所の判断

1 地裁判旨

「所得税法242条8号(調査拒否の罰則規定)の罪は、その質問等について合理的な必要性が認められるばかりでなく、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情が認められる場合にのみ、成立する」という見解に立ち、本件においてはそのいう「特段の事情」が認められず、同条号の罪を「構成するに足りない」として被告人に無罪を言い渡した。

2 高裁判旨

「本件検査要求は所得税法234条1項に照し、特に不当違法なものとは認められず、被告人らの検査拒否を正当視すべき何らの事由も見出すことができず、殊に本件においては、原判決のいうこれを処罰の対象としても決して不合理とはいえない特段の事情に相当するかと思われる事情さえこれを認めうる」として、原判決を破棄、自判してXを罰金刑に処した。

3 最高裁決定要旨

所得税法234条1項は、同法242条8号の罪の構成要件の規定として、その意義が明確を欠くものではない。
所得税法234条1項にいう「納税義務がある者」とは、課税要件がみたされて客観的に納税義務が成立し、いまだに最終的に適正な税額の納付を終了していない者および当該課税年が開始して課税の基礎となる収入の発生があり、将来終局的に納税義務を負担するにいたるべき者をいい、「納税義務があると認められる者」とは、税務職員の判断によってこの納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいう。
所得税法234条1項の質問検査において、その理由および必要性を相手方に告知することは、法律上の要件ではない。

所得税法242条8号の罪の構成要件の解釈

地裁

質問等に合理的必要性が認められるばかりでなく、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事情が認められる場合にのみ成立する、と制限的に解釈した。

高裁

質問等が合理的に是認される場合であることを必要とし、その質問検査が、納税義務者等の権益を不当に侵犯したり、侵犯するおそれのある不当なものであってはならないのであって、質問、検査要求が不当である場合を含めて、納税義務者等のこれに対する不答弁ないし拒否が社会通念上やむをえないものとして是認されるような場合、右違反罪の成立を否定すべきであるが、それ以上にさらに厳格な要件を必要とするものではない、と解釈した。

最高裁

客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、質問検査を行う権限を認めた趣旨であり、調査の具体的態様については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方との私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものとし、行政庁の広汎な裁量を認めるものと解釈した。

第3 検討

1 本決定の意義

所得税法234条の規定の明確性、調査の必要性の意義、事前通知と理由告知の必要性、及び事前調査の可否、という4つの基本的な重要問題に関する、最高裁判所の最初の判示であり、質問検査に関する先例として重要である。

2 所得税法234条の規定の明確性

犯罪構成要件規定の明確性に関連して、所得税法234条1項(現在の国税通則法74条の2第1項)について特に問題となるのは、「所得税に関する調査について必要があるとき」という不確定概念が明確性を欠いているかどうかである。一般に、この概念は租税行政庁の恣意を許すほど一般的なものではなく、いかなる場合に質問検査を行う必要があるかは、解釈によって明確にできる事柄であるから、それは不明確な規定ではないと解されている。

3  調査の必要性の意義

必要性の意義について、判旨は客観的必要性を意味するとしている。判旨は上告理由の「現在且つ明白な必要性」という考え方について直接何も述べていないが、客観的に過少申告の疑いがあるようなばあいは必要性の要件がみたされる、と解しているものと推察される。なお、注目すべきことは、判旨が、質問検査の範囲、程度、時期、場所等の選択について「相手方の私的利益との均衡において社会通念上相当な限度」にとどまらなければならない、という歯止めないししぼりをかけていることである。これは、必要性の要件とは別の要件として述べられていると解すべきであろう。したがって、質問検査権の行使の必要性が客観的に認められる場合であっても、その行為の態様がこの限度をこえる場合には、質問検査は違法となる。

4 事前通知と理由告知の必要性

事前通知並びに理由告知が質問検査権行使の要件であると解すべきかどうか、学説は分かれている。それは要件ではないとする見解も有力である(清水敬次・税法139頁)が、憲法31条の適正手続を根拠としてそれが必要であるとする見解(北野弘久編・質問検査権の法理)も強く主張されている。
判旨は、この点について「法律上一律に要件とされているものではない」と述べているにとどまる。なお、判旨のこの文言について、それは事前通知が必要とされる場合もありうることを示唆したものである、とする理解の仕方が可能であることに注意する必要がある。

5 事前調査の可否

判旨は、所得税法234条1項の「納税義務がある者」という規定は同5条の「所得税を納める義務がある」という規定を承けているという理由のもとに、事前調査は許されると判示している。

6 質問検査がどのような場合に可能であり、また質問検査を行う際にどのような手続きを執るべきか

①本決定により示された事項

諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合に、質問検査が可能であること。質問検査を行う際には、権限ある税務職員に一定範囲の裁量権を認めつつ、比例原則による制約が及ぶとされたこと。

[オマケ:つまり、質問検査の必要性の判断について、課税の要件のみを強調した解釈を採ることなく、具体的事情および相手方の私的利益をも考慮して決すべきであるとしたこと。]

②本決定において示されず、平成23年の法改正によって規定された事項

税務署長等は、職員に納税義務者に対して税務調査等を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者に対し、その旨、及び、一定の事項を事前に通知しなければならないこと(国税通則法74条の9第1項)とされたこと。

[オマケ:実務上は通知されていたようだが、明文規定化された。ただし、74条の10に事前通知を要しない規定もできた(妨害・隠蔽工作の防止)。]

③平成23年の法改正においても規定されず、なお課題として残されている事項

調査の具体的理由の開示までは規定されていないこと。

質問検査権の沿革

※これはレジュメに載せたものではなく、発表のさいに口頭で付け足すオマケとして用意した部分です。

明治20年 所得税法創設、尋問権が規定された。
明治32年 質問権が規定された。
昭和15年 質問検査権が規定され、かつ、罰則(罰金のみ)ができた。
昭和22年 罰則に懲役刑が追加された。

平成23年 国税通則法に税務調査手続規定が一括された。
74条の2~74条の6 帳簿その他の物件の提示・提出を求めることができる
74条の7 提出物件の留め置き
74条の9 調査の事前通知
74条の10 事前通知を要しない規定
74条の11 調査結果を通知または説明すること

参考文献(評釈)

柴田孝夫・最高裁判所判例解説 刑事篇(昭和48年度)99頁
南博方・ジュリ臨増565号38頁(昭48重判解)
山本未来・ジュリ別冊235号210頁(行政判例百選Ⅰ 第7版)
中原茂樹・ジュリ別冊228号213頁(租税判例百選 第6版)
金子宏・ジュリ別冊61号263頁(行政判例百選Ⅱ)

今日の「愛され妻」

最近できた飲食店に夫と行ってきました。ふだん行くお店よりお高いトコで、そのぶん豪華な食材でした。私は「あん肝」をはじめて食べて、あまりの美味しさに、思わず独り占めしてしまいました。

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