【判例研究】税務調査と国税犯則調査(最高裁平成16年1月20日第二小法廷決定 刑集58巻1号26頁)

ジェームス吉田屋 玉子焼

税理士試験受験生応援ブロガーくまお(@kumaco55)です。

事案をまとめるのに、判例タイムズの要旨を参考にしたり、調査官解説を読んだりします。
一つの判例報告に1か月くらい掛かることがあり、もう少し要領よくできたらな~と試行錯誤です。

第1 事実の概要

最高裁平成16年1月20日第二小法廷決定 刑集58巻1号26頁

1 被告人

X(Y・Z株式会社の代表取締役ないし実質的経営者)
Y・Z(砂利の採取運搬等を目的とする海運業)

2 起訴内容

延べ5事業年度にわたり、法人税計2億9千万円あまりを逋脱した法人税法違反。

3 事件経過

被告会社Y・Zの経営者である被告人Ⅹは、税理士を介して、B税務署に修正申告を申し出た。これは、A国税局調査査察部による内偵調査を察知したためである。
B税務署は、直ちに被告会社Y・Zに対する税務調査を行って、必要な資料の提供を受けた。その後、B税務署の職員は、A国税局調査査察部に上記税務調査を連絡した上、提供を受けた資料の一部をファックス送信した。
A国税局調査査察部は、上記連絡を受けたため、予定していた強制調査を繰り上げて、内偵調査で取得収集していた資料にB税務署から送信を受けた資料の一部を加えて、臨検捜索差押許可状を請求した。その発付を得て、被告会社Y・Z等を臨検捜索し、有罪認定に必要な証拠資料を押収した。

4 被告人の主張

総勘定元帳等の有罪認定に供された証拠が、税務調査のための質問検査権を犯則調査のための手段として行使して違法に収集されたものであるから、証拠能力を欠く旨主張した。

5 国側の主張

上記被告人主張の事実を否定し、本件税務調査が犯則調査の手段として行使された事実はないと主張した。

6 審理経過

(1)1審:有罪・控訴(Xに執行猶予つき懲役刑、Y・Zに罰金刑)
(2)控訴審:棄却・上告
(3)上告審:上告棄却

第2 裁判所の判断

1 地裁判旨

法人税法156条は,適法な税務調査中に犯則事件が探知された場合に、これが端緒となって収税官吏による犯則事件としての調査に移行することも禁ずる趣旨のものとは解されない(最高裁昭和51年7月9日第二小法廷判決・刑集201号137頁)。
本件では、税務調査に籍口して犯則調査のための証拠資料が取得収集されたことはなか ったから,証拠収集過程に違法はなく、適法な税務調査の過程で犯則調査が探知された場合 には、それを端緒として犯則調査に移行することが禁じられているわけではなく、それに伴う限度で情報提供、資料の送付を行うことも許されるとして、その主張を排斥した。

2 高裁判旨

税務調査で取得収集された資料を犯則調査のため利用することはできるとしながら、本件では、税務調査のための質問検査権が、犯則調査の証拠資料を保全する目的で行使された可能性を排除することができず、法人税法156条に違反したものというほかないとした上、その違法は重大なものではないから、有罪認定に供された証拠の証拠能力を肯定できるとして、1審判決を是認した。

3 最高裁決定要旨

本件では、質問検査権の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則調査の証拠として利用されることが想定できたにとどまり、質問検査権が犯則調査のための手段として行使されたとみるべき根拠はないから、証拠の収集過程に違法があったとした原判決の判示部分は是認できないが、有罪認定に供された証拠の証拠能力を肯定した原判決の結論は是認できるとしている。

第3 検討

1 税務調査と犯則調査の違い

税務調査と犯則調査

2 質問検査権の行使の適法性

税務調査が間接強制により実効性を担保されていることとの関係で、法人税法156条には、この質問検査権限が「犯則捜査のために認められたものと解してはならない」との定めが置かれている。犯則捜査のために税務調査の権限を認めることは、令状主義や黙秘権等の刑事手続上の保障がないままに、刑事責任追及のための証拠収集を行うことにほかならないからである。
質問検査権は、租税の賦課徴収のためという調査目的と、間接強制にとどまるという制度の造りを前提として、判例は税務調査の規定は憲法35条及び憲法38条1項に違反しないとしている(最大判昭和47年11月22日 刑集26巻9号554頁)。
このため、税務調査で用いられた情報が犯則調査を通じて犯罪(逋脱罪等)の立証に用いられた場合には、重要な法的問題が生じることとなる。すなわち、税務調査においては不答弁を刑罰をもって禁止しているから、その調査結果がその納税者の犯罪を立証されるのに用いられれば、憲法38条1項の供述拒否権の保障に違反することになる。

3  本決定により具体化された法人税法156条の規範内容

①「犯罪の証拠資料を取得収集し、保全するためなど、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として」の質問検査権行使が禁じられること。
②①に該当するか否かを、犯則調査や捜査の遂行を容易にしあるいは促進する効果の有無や程度という客観的な結果ではなく、質問検査権行使の際に当該職員が有していた主観に着目して判断すること。
③その主観が「取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されること」の「想定」にとどまるときは、直ちに質問検査権の行使を違法にするものではないこと。

4 適法な税務調査によって取得収集された資料の刑事裁判における証拠能力

判例は証拠能力を肯定している。
「法人税法156条が、税務調査中に犯則事件が探知された場合に、これが端緒となって犯則事件としての調査に移行することをも禁ずる趣旨のものとは解し得ない(最判昭和51年7月9日 刑集201号137頁)。」
学説は、否定する立場と肯定する立場とにわかれ、見解は一致していない。
これを認めることになると憲法上の保障が潜脱されることになるとして証拠能力を否定する見解(佐藤英明『スタンダード所得税法第2版補正版』395頁)。
税務調査の通常の過程で発見された逋脱の事実は、それを端緒にする犯則調査の対象になるのであるから、質問検査の過程で取得収集された資料が刑事裁判手続で証拠から一律に排除されることにはならない、と一定限度で流用を認める見解(小島建彦「租税法」『注解特別刑法第5巻経済法篇Ⅱ』69頁)。
税務調査の過程で看過できない犯則事実を発見することは少なくなく、税務調査と犯則調査が異なった手続であることからすると、税務調査で取得収集された資料を犯則調査で利用することは許される、と全面的な流用を認める見解(草川十郎ほか「調査・査察税務」『現代税務全集29巻』395頁)。

5 違法な税務調査によって取得収集された資料の刑事裁判における証拠能力

質問検査権が犯則事件の調査あるいは捜査のための「手段として」行使された場合には違法になると判示している(名古屋高判昭和50年8月28日)。このような場合、税務調査によって得られた資料は刑事訴訟において証拠能力を否定されよう(増井良啓「税務調査と国税犯則調査」『行政判例百選Ⅰ第7版』212頁)。

6 犯則調査で取得収集された証拠資料を課税処分の基礎として用いることは許されるか

判例(最判昭和63年3月31日 訟月34巻10号2074頁)は、犯則調査により得られた証拠資料を課税処分及び青色申告承認の取消処分の基礎として用いることは許されるとしている。より重い手続を経ていることもあり、学説もこれに賛成する(金子宏『租税法第23版』954頁)。

参考文献(判批)

山口雅髙・最高裁判所判例解説 刑事篇(平成16年度)35頁
川出敏裕・ジュリ臨増1291号199頁(平16重判解)
増井良啓・ジュリ別冊235号212頁(行政判例百選Ⅰ 第7版)
笹倉宏紀・ジュリ別冊228号234頁(租税判例百選 第6版)
小平武史・税務事例36巻8号8頁
山口敬三郎・税務事例43巻6号7頁

今日の「愛され妻」

マラソン大会直前は、生ものや脂っこいものなどは避けて、タンパク質と炭水化物をメインにします。鶏肉とお餅の両方を食べるとなると鍋が一番!と、冬でよかったなと思います。

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