令和4年度(第72回)税理士試験出題のポイント

令和4年度(第72回)税理士試験出題のポイント

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令和4年度(第72回)税理士試験出題のポイントが公開されました!
来年の税理士試験の参考として活用しましょう。

簿記論

第一問

問1

本問は、開始残高勘定、損益勘定、残高勘定の開始残高、決算関係情報、現金預金取引を集約したキャッシュ・フロー計算書、取引に関する資料をもとに、期中の取引を推定し、勘定間の連携を理解できているか、簿記一巡の手続、基礎的な決算整理手続を理解できているかを問う問題である。

問2

本問は、受託買付、委託買付において、本人と代理人の区分が理解できているかを問う問題である。また、新たな収益認識に関する会計基準で取り上げられている返品権付き販売の処理について、財務諸表上の表示だけでなく、期中の現実的な会計処理を踏まえた決算整理を行えるかも問うている。

第二問

問1

本問は、グルーピングを行った固定資産に減損の兆候が現れた場合の減損損失の認識及び測定に関する会計処理について、基本的な理解を問う問題である。各固定資産について減損処理の必要性の有無を判断し減損損失額を適切に算定できるかどうか、共用資産を含むより大きな単位での減損処理をする場合の会計処理について、共用資産への減損損失の超過額を各資産に適切に配分し仕訳を行うことができるかどうかについて問う問題である。

問2

本問は、株式や社債などの有価証券の取得と、売却や償還があった場合についての会計処理及び仕訳について、基本的な理解を問う問題である。社債については利息法による償却原価法で利息配分額を適切に算定できるかどうか、株式売却時に洗替法と切放法のそれぞれについて有価証券売却損益を適切に算定できるかどうか、関連会社株式について持分法投資利益の算定及び減損処理の仕訳を行えるかどうかについて問う問題である。

第三問

本問は、決算整理前残高試算表から、問題文に示した決算整理事項等に基づき決算整理後残高試算表を作成する総合問題である。問題文に示された取引事実等を迅速かつ的確に理解した上で、部門別で提示される資料に基づき分類・集計をし、あるべき会計処理を迅速に導き出す応用力を判定することを問う問題である。
 個別的には、現金・預金の残高調整、金融商品、消費税等、減価償却費、圧縮記帳、貸倒引当金及び賞与引当金等といった実務における頻出重要項目のほか、工事契約に関する収益認識、リース会計、税効果会計及び退職給付引当金等に係る企業会計基準等の内容の基礎的な理解度及び簿記論の基礎的な仕訳並びに計算技術の達成度を問うている。

財務諸表論

第一問

問1

本問は、収益認識の基本となる原則について、約束した財又はサービスの顧客への移転による履行義務の充足、資産に対する支配の移転の獲得、資産からの便益の意義等に関する基礎的な知識及び理解を問う問題である。

問2

本問は、収益認識における5つのステップについて、その順序及び各ステップの内容の理解を問うとともに、顧客との契約について、その定義や充足すべき要件、契約における経済的実質に関する基礎的な知識及び理解を問う問題である。

問3

本問は、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転するケースについて、一定の期間にわたる履行義務の充足とそれに伴う収益認識に関する基礎的な知識と、履行義務の充足に係る進捗度に関する理解を問うとともに、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合に適用される原価回収基準の問題点についての見解を問う問題である。

第二問

問1

本問は、有形固定資産の減価償却の基本思考を問う問題である。そのために総合償却に注目し、この方法の特徴を問うている。
 (1)は、企業会計原則及び連続意見書における減価償却の基礎的知識を穴埋め形式で問う問題である。
 (2)は、総合償却の2類型を理解しているか、選択肢を用いて問うている。
 (3)は、具体的な総合償却の処理を問う問題であるが、その際に、処理方法として法人税法基本通達によるものではなく、総合償却本来の考え方に基づく、各個別資産の残存価額を求めないものを対象とした。これにより、企業会計原則のいう「取得原価の期間配分」という減価償却の機能が徹底されることの理解を問うている。

問2

本問は、資産除去債務を伴う有形固定資産に関する問題である。
 (1)は、計算により、資産除去債務及びそれを伴う有形固定資産に係る処理の基礎を問う問題である。
 (2)は、我が国基準の特徴である利息費用の損益計算書における取扱いを、その理由とともに問う問題である。
 (3)は、関連して発生する諸項目のキャッシュ・フロー計算書における処理を問う問題である。
 いずれの問題も「資産除去債務に関する会計基準」及びキャッシュ・フロー計算書の構造に関する基本的知識並びに損益とキャッシュ・フローとの違いを区別できる判断力があれば答えられる基本的な内容になっている。

第三問

本問は、会社法及び会社計算規則に基づく計算書類等の基本的な理解度を広範囲に問う問題である。資料を正確かつ横断的に読み取って、貸借対照表及び損益計算書を適切に作成できるかを問うている。

(1) 現金及び預金について、現金及び預金の基本的な組み替え事項、外貨建て預金、当座借越の処理に関する理解を問う。
(2) 金銭債権について、「金融商品に関する会計基準」における債権区分の考え方と貸倒引当金の会計処理に関する理解を問う。
(3) 棚卸資産について、「棚卸資産の評価に関する会計基準」における棚卸資産の評価基準及び評価方法に関する理解を問う。
(4) 有価証券について、「金融商品に関する会計基準」における有価証券の評価方法等に関する理解を問う。
(5) 自己株式について、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」における自己株式の処分等に関する理解を問う。
(6) 有形固定資産について、圧縮記帳の会計処理に関する理解を問う。
(7) 資産除去債務について、「資産除去債務に関する会計基準」における資産除去債務の会計処理に関する理解を問う。
(8) リース取引について、「リース取引に関する会計基準」におけるリース資産及びリース債務の会計処理等に関する理解を問う。
(9) ソフトウェアについて、「研究開発費等に係る会計基準」におけるソフトウェアの会計処理に関する理解を問う。
(10) 退職給付会計について、「退職給付に関する会計基準」における引当金の処理に関する理解を問う。
(11) ストック・オプションについて、「ストック・オプション等に関する会計基準」における新株予約権の評価方法及び会計処理に関する理解を問う。
(12) 諸税金の処理について、納付税額の処理方法の理解を問う。
(13) 税効果会計について、「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産・負債の会計処理と表示に関する理解を問う。
(14) 附属明細書について、「販売費及び一般管理費の明細」についての開示に関する理解を問う。
(15) 注記について、「貸借対照表に関する注記」及び「損益計算書に関する注記」についての注記の開示に関する理解を問う。
(16) 会社法及び会社計算規則に定める貸借対照表及び損益計算書の区分、項目及び名称に関する理解を問う。

所得税法

第一問

問1

所得税法上、個人の納税義務者は、法施行地(日本国内)における住所又は居所の有無等に基づいて、1居住者(非永住者以外の居住者)、2居住者(非永住者)又は3非居住者に区分されており、その区分に応じて課税所得の範囲や課税方法等を規定している。
 個々人の社会的・経済的な結びつきが国を超えてますます深まり、それに伴い居住形態や収入形態が多種多様となる中で、非永住者や非居住者の申告等が法令にのっとり的確に行われることは大変重要であり、税理士としてその申告等に関する見解や判断を問われる場面は多いと思われる。
 本問は、納税義務者の区分等を判断する際のよりどころとなる規定について、基本的かつ重要な点を明瞭に理解しているか確認するため、

1 納税者は、住所の有無等により、非永住者以外の居住者、非永住者である居住者又は非居住者に区分されること
2 その区分に応じて、課税所得の範囲が定められていること
を問いつつ、非居住者にスポットを当て、

3 非居住者が取得する国内不動産の賃貸料は、賃借人により所得税等が源泉徴収された上で総合課税の対象となること
4 非居住者が適用できる所得控除は、雑損控除、寄附金控除及び基礎控除のみであること
について説明を求めるものである。

問2

事業所得等の金額の計算上生じた損失の金額について、損益通算をしても控除しきれない金額がある場合、すなわち「純損失の金額」が生じた場合には、一定の要件の下で「純損失の繰越控除」及び「純損失の繰戻しによる還付の請求」が可能となる。
 近年において、災害を含む各種要因による経営環境の変化は目まぐるしく、各年の所得額に大きな変動が生じることが稀有とは言えない中、純損失が生じた納税者が、各年の所得額の変動を平均化し税負担の抑制を図ることは当然のことであり、税理士はそのような納税者の求めに応じて、個々の制度を的確に選択し適用する必要がある。
 純損失が生じた場合、まずは繰越控除の適用が検討されるとも考えられるが、事業を廃止した場合を含め、個々の納税者の状況を踏まえれば、「純損失の繰戻しによる還付の請求」を選択すべき場面も少なくないと考えられる。
 本問は、純損失の繰戻しによる還付の請求に焦点を当て、純損失が生じた場合には、その金額を前年に繰り戻すことにより還付請求ができること並びにその場合の適用要件、計算方法及び手続を問いつつ、事業を廃止した場合には、廃止した年の前年に生じた純損失の金額を、廃止した年の前々年に繰り戻すことにより還付請求ができることなどについても理解しているかを問う問題である。

第二問

所得税法では、所得を10 種類に分類し、これらの各種所得ごとにその所得金額を計算し、課税標準である総所得金額等を計算する。そして、課税標準から所得控除額を控除して課税総所得金額等を計算し、その課税総所得金額等に対する税額を計算する。
 本問は、相続した賃貸不動産及びいわゆる等価交換による店舗併用住宅の譲渡事例を通じて、不動産所得及び譲渡所得を中心に、一連の計算過程の理解を問う問題であり、その主なポイントは次のとおりである。

(1) 不動産所得及び事業所得の収入金額の範囲並びに計上時期
(2) 不動産所得及び事業所得の必要経費の範囲
(3) 資産の損失額の計算
(4) 減価償却資産の償却計算
(5) 店舗併用住宅の譲渡所得の計算及び特例の有利不利判定
(6) 所得控除額の計算
(7) 金融所得の課税関係
(8) 外国税額控除

法人税法

第一問

本問は、法人税法における基本的な事項の中から、受取配当等の益金不算入に関する事項及び会社清算に関する事項を取り上げて、それぞれの事項に係る課税上の取扱い等について、正しく理解しているかを問う問題である。

問1

本問は、法人が受け取る配当等について、その支払いを行う法人の属性及び株主等である法人との関係性等に伴う課税上の違いについての正しい理解を問う問題である。
 内国法人が他の内国法人から配当等の額を受ける場合には、その配当等の額(完全子法人株式等、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等に係る配当等の額にあってはその配当等の額の50%相当額とし、非支配目的株式等に係る配当等の額にあってはその配当等の額の20%相当額)は、各事業年度の益金の額に算入しないこととされている。ただし、この制度は短期保有株式等に係る配当等の額及び自己株式の取得が予定されている株式等に係る配当等の額でその予定されていた事由に基因するものについては適用しないこととされている。
 また、関連法人株式等に係る配当等の額から控除する利子の額は、令和2年度税制改正において、その配当等の額又は支払利子等の額に基づき概算的に算定することとされている。
 次に、内国法人が外国子会社から配当等の額を受ける場合には、その配当等の額からその配当等の額の5%相当額を控除した金額は、各事業年度の益金の額に算入しないこととされている。この制度の対象となる外国子会社は、内国法人がその発行済株式等の25%以上を配当等の支払義務が確定する日以前6月以上引き続き有している外国法人等に限られるが、令和2年度税制改正において、その外国子会社及び受ける配当等の額がそれぞれ一定の要件に該当する場合には、内国法人が有するその外国子会社の株式の帳簿価額から、その配当等の額につき益金不算入とされた金額相当額を減額することとされている。
 こうした近年の改正事項について関心を向けつつ、一定の差異に基づく誤りやすい事項に適切に法令を適用するためには、制度の内容を正しく理解していることが必要であり、本問は、その内容を問う問題である。

問2

本問は、法人の解散及び清算中に適用される法人税の規定についての正しい理解を問う問題である。
 法人が解散をした場合には、解散の日前1年以内に終了した事業年度又は解散の日の属する事業年度のいずれかの事業年度に欠損金があるときは繰戻還付が認められるが、この場合の還付請求書の提出期限は解散の日から1年以内とされている。
 また、清算中の事業年度について会社法の規定による解散の場合には、残余財産の確定の日までの間は、解散の日の翌日から1年ごとの期間が清算中の事業年度となり、残余財産が確定する日の属する事業年度の確定申告書の提出期限はその確定した日の翌日から1月以内となり、期限延長の特例の適用はない。
 さらに、一定の完全支配関係にある子会社の残余財産が確定した場合において未処理欠損金額がある場合には、その株主等である法人に未処理欠損金額の引継ぎが行われる一方で、その子会社株式の譲渡損益は計上されないこととなるのであるが、本問は、これらの取扱いについて問う問題である。

第二問

本問は、同族会社である中小法人における法人税法上の取扱いについて、その事業年度の中途において、その定款等に定める会計期間を変更したことによる影響を考慮した上で、所得金額の計算から納付すべき法人税額を算出するまでの過程について、その理解を問う問題である。

(1) 租税公課・納税充当金に関する事項
法人税法における租税公課に関する取扱いは、基本的事項であり、非常に重要である。
 本問は、租税公課・納税充当金に関する当期の会計処理から、税務上調整すべき金額を正しく把握することを求めている。また、前期の確定申告について修正申告を行った場合において、当期に当該修正申告に係る会計処理を行う場合の税務上の処理について、正確な理解を問う問題である。

(2) 外貨建資産等・外国税額控除に関する事項
我が国の企業が国外の企業と商取引を行うことは珍しくない状況となっている。
 本問は、外貨建資産等の期末換算についての理解を問う問題であり、特に、先物外国為替契約等による決済が行われた場合に為替予約差額の配分を行うこと、また、国外源泉所得がある場合に、国外にて源泉徴収された外国法人税に対して外国税額控除を適用することについて、その理解を問う問題である。

(3) 役員給与に関する事項
役員給与は、特に中小法人が稼得した利益を社外流出させる手段として非常に重要であることから、法人税法においては、様々な取扱いが規定されている。
 本問は、使用人兼務役員の判定、定期同額給与及び事前確定届出給与について、実務においても税理士として指導・助言をする機会が多いと考えられる事項について問う問題である。特に、役員に対して経済的利益が供与された場合の定期同額給与の範囲及び事前確定届出給与の取扱いについて、正確な知識とその理解を問う問題である。

(4) 減価償却に関する事項
法人が事業年度を変更した場合には、減価償却費の償却限度額の計算において減価償却資産の償却率を改定する必要があり、また、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を適用する際の損金算入限度額の計算において当該事業年度の月数を反映させる必要があるなど、特に留意が必要である。
 本問は、中小法人が事業年度を変更した場合の改定償却率の算出方法及び償却限度額の月割計算についての正確な理解を問う問題であり、また、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用について、納税者が最も有利となる方法を取るために適用対象とする減価償却資産の選定における注意力も問うている。

(5) 暗号資産に関する事項
暗号資産は、短期売買商品等に該当するものでありながら、決済手段にもなり得るものである。中小法人においても暗号資産の保有が珍しいものではなくなっていることから、法人税法における暗号資産の取扱いは、税理士業務においても必須の知識となりつつある。
 本問は、暗号資産を決済・交換した場合には、当該暗号資産の譲渡損益の計上が必要であることについての正確な理解を問う問題であり、また、市場暗号資産の期末時価評価について、その知識も問うている。

(6) 寄附金に関する事項
寄附金の損金算入限度額の計算においては、当該事業年度の月数をその計算に反映させなければならない。
 本問は、法人が支出した寄附金の区分についての正確な理解を求め、事業年度の変更があったことによる影響を理解した上で、その計算を行うことを問う問題である。

(7) 所得の金額の計算に関する明細書及び各事業年度の所得に係る申告書に関する事項
法人税法においては、当期の確定した決算に基づく当期利益又は当期欠損の額から所得金額を計算するに当たり、税務調整項目の金額のみならず、その留保・社外流出の別が非常に重要となる。それは、法人において生じた税務調整項目について、翌期以降での取戻しによる税務調整の有無に関わるからである。したがって、税理士は実務において、常に税務調整項目の留保・社外流出の別に留意する必要がある。
 本問は、算出した税務調整項目について、留保・社外流出の別の正確な理解を問う問題であり、また、資本金1億円以下の普通法人については、各事業年度の所得に対する法人税の軽減税率の適用があることから、事業年度が1年でない場合の法人税額の計算についての正確な理解も問うている。

相続税法

第一問

問1

贈与税は、相続課税の存在を前提に生前贈与による相続課税の回避を防止する意味で、相続課税を補完する役割を果たしている。具体的には、1年間の贈与につき暦年ごとに課税(暦年課税制度)しつつ、被相続人の死亡直前の生前贈与による相続税負担の回避に対応するため、相続開始前3年以内になされた贈与財産についてのみ相続財産に加算して相続税として課税(課された贈与税額は控除)する方法を採っている。
 平成15年度税制改正では、生前贈与の円滑化に資する観点から、生前贈与と相続との間で資産移転の時期の選択に対して税制の中立性を確保することが重要となってきている状況を踏まえ、相続税・贈与税の一体化措置として、暦年課税制度との選択制とする相続時精算課税制度が創設された。この制度を選択した受贈者は、制度の適用に係る贈与者から受けた贈与財産について贈与時に他の贈与財産と区別して贈与税が課され、贈与者の相続時まで継続してこの制度が適用される。なお、贈与者の死亡時には、それまでの贈与財産と相続財産とを合算して計算した相続税額から、既に課された贈与税相当額が控除され、控除しきれない贈与税相当額は還付される。
 また、平成25年度税制改正では、高齢者の資産を若年層に移転させることにより、若年世代の教育に係る負担軽減を図りつつ、経済活性化に資することを目的に、教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置が講じられており、令和元年度税制改正等では、当該非課税措置が格差の固定化につながらないよう機会の平等の確保に留意した見直しが必要との観点から、受贈者が在学中の場合等を除き、贈与者死亡時における残額の相続財産への加算等の措置が講じられている。
 本問は、上記のような改正等を踏まえ、贈与税と相続税の調整に関する規定についての理解を問う問題であり、実務上、相続税の課税価格に加算すべき贈与財産の価額の有無の確認をし、これらの規定に基づき、相続税の課税価格への加算の検討を行い、その上で適切に相続税を算出することは極めて重要であり、制度の内容の正しい理解が必要であることから、その内容を問う問題である。

問2

非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度、いわゆる事業承継税制は、事業承継の円滑化に資するため、事業の発展・継続を通じた雇用確保と地域経済の活力維持を政策目的として、平成21年度税制改正で創設された制度である。平成30年度税制改正においては、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から、10年間の贈与・相続に適用される時限措置として、抜本的な見直しが行われている。
 この事業承継税制は、贈与税について適用を受ける場合には、将来贈与者が死亡した際に相続税で調整することを前提に、贈与時には贈与税の全額を納税猶予することで、実質的に税負担を求めないこととされており、猶予期間中に事業継続等の要件を満たさなくなった時点において、猶予されていた贈与税額の納付が必要となる。そして、贈与者の死亡時において猶予中の贈与税額は免除され、その納税猶予の適用を現に受けている株式等の贈与時の時価を相続税の課税価格に加算して相続税で精算されるとともに、所要の要件を満たす場合には、その株式等に係る相続税について事業承継税制の適用ができる仕組みとされている。
 したがって、実務上、贈与税について事業承継税制の適用を検討する場合、贈与及び相続を通じた事業承継税制の全体の基本的枠組みを理解した上で、その適用を検討することが重要となることから、本問は、贈与税の事業承継税制の内容の理解に加え、贈与者が死亡した場合における贈与税の事業承継税制の適用を受けた株式に係る贈与税及び相続税の課税関係の理解を問う問題となっている。

第二問

相続税の全体像を理解するためには、民法の相続人、法定相続人の判定や遺言、分割協議に始まり、個別の財産評価、課税価格計算、税額計算に至るまで、相続税法や租税特別措置法に留まらない横断的な理解が必須である。特に、税理士として実務に関わる際には、個別の財産評価について基礎から応用まで、その理解を問われることとなる。また、被相続人の遺産の利用状況等の背景をどれほど理解しているかが、特例適用の判断に大きな影響を与える。相続税に関わる法改正も確実に理解する必要がある。
 以上を踏まえ、本問は、各相続人の納付すべき相続税額を算出させることを通じて、相続税法の総合的な理解度を問う問題であり、その主なポイントは次のとおりである。

(1) 法定相続人と相続人に関する規定を正しく理解していること。
(2) 宅地の評価(評価単位、使用貸借、私道、地積規模の大きな宅地)を理解していること。
(3) 家屋の評価を理解していること。
(4) 配偶者居住権等の評価を理解していること。
(5) 取引相場のない株式の評価を理解していること。
(6) 公開途上にある株式の評価を理解していること。
(7) 貸付金の評価を理解していること。
(8) 小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例の制度を理解していること。
(9) 被相続人の債務控除・葬式費用の控除を理解していること。
(10) みなし相続財産である生命保険金等、生命保険契約に関する権利の取扱いを理解していること。
(11) 相続税額の2割加算の制度を理解していること。
(12) 配偶者に対する相続税額軽減の制度を理解していること。
(13) 未成年者控除の制度を理解していること。

消費税法

第一問

問1

消費税の課税の対象は、国内取引として、国内において事業者が行った資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。)及び特定仕入れ、輸入取引として、保税地域から引き取られる外国貨物とされており、国内取引については、資産の譲渡等を行う事業者(売手側)の取引が課税の対象となる場面とその資産の譲渡等を受ける事業者(仕入手側)の取引が課税の対象となる場面の二つがあるところ、これに対応して、事業者が国内において行った課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。)及び特定課税仕入れについて、納税義務を負うこととしている。すなわち、国内において課税資産の譲渡等を行う事業者が納税義務を負うとともに、一定の取引については、国内取引で特定資産の譲渡等である役務の提供を受ける事業者が、いわゆるリバースチャージとして納税義務を負うこととなる。本問の一つ目は、資産の譲渡等を受ける事業者(仕入手側)の場面として、課税事業者が国内において行った特定課税仕入れにつき、値引き又は割戻しといった対価の返還を受けた場合の課税関係について問う問題である。売上げに係る対価返還等や仕入れに係る対価返還等だけでなく、いわゆるクロス・ボーダー取引において特定課税仕入れを行った場合には、その対価返還等を受けることもあるため、実務においても重要な論点であり、正しく理解していることが必要であるから、特定課税仕入れの意義などについても触れさせた上で、その内容と要件を述べさせ、また、相続等があった場合の取扱いについても問う問題とした。
 次に、消費税法における価格表示、いわゆる総額表示義務は平成15年度税制改正で新設されたが、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年法律第41号)により、平成26年及び令和元年の二度にわたる消費税率の引上げに際し、事業者の事務負担等に配慮する観点から、一定の期間、現に表示する価格が税込価格であると消費者に誤認されない措置を講じているときに限り、税込価格を表示することを要しないという総額表示の特例措置が設けられていた。当該特例措置の適用期間は令和3年3月31日までであったことから、同年4月1日以降は、消費税本法の総額表示義務が適用されることとなる。事業者から総額表示義務に関する税務相談があった場合や事業者が行っている対象となる価格表示が正しく遵守されているか、その内容を正しく理解していることが実務において重要であり、本問の二つ目は、その内容を問う問題とした。

問2

消費税は、内国消費税であり、国内において消費される物品やサービスについて負担を求めるものであることから、国内以外の場所で行われる取引は課税対象外であり、また、輸出取引は免税とされている。資産の譲渡等が国内取引に該当するかどうかの判定(内外判定)は、原則として、資産の譲渡又は貸付けについては、その譲渡又は貸付けが行われたときに資産が所在していた場所により、役務の提供(電気通信利用役務の提供以外)については、役務の提供が行われた場所により、電気通信利用役務の提供については電気通信利用役務の提供を受ける者の事務所等の所在地により判定することとされている。ただし、いわゆる無形資産の譲渡、有価証券の譲渡、国内外にわたる役務の提供など一定の資産の譲渡等については、消費税法施行令第6条で定める場所により判定することとされている。また、非居住者に対して行われる資産の譲渡及び貸付けなど、一定の取引については、輸出取引等として消費税を免除することとされている。本問は、事業者が行った事例の取引に係る内外判定を行うなど、消費税法令の適用関係について、その理由を示して説明させる問題とした。消費税の基本的かつ重要な要素である国内取引の判定基準、国内取引のうち非居住者に対する取引である場合には、輸出取引等として消費税が免除される資産の譲渡等について正しく理解しているかなど、税務代理や税務相談を担う税理士の実務においても重要な論点であり、その必要な知識も問うている。

(1) いわゆる三国間取引
(2) 二国で登録された特許権の譲渡
(3) 株券の発行がない株式の譲渡
(4) 非居住者に対する利子を対価とする金銭の貸付け
(5) いわゆる消費者向け電気通信利用役務の提供

第二問

問1

事業者は、原則として国内において行った課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについて消費税の納税義務を負うが、事業規模が一定以下の場合にはその納税義務を免除することとしている(小規模事業者に係る納税義務の免除)。この判定は基準期間における課税売上高により行うが、法人の設立時等については基準期間における課税売上高が1千万円以下である場合(基準期間がない場合を含む。)であっても、一定の要件の下で納税義務を免除しないこととする種々の特例が設けられている。税理士は、これらの特例の適用関係を正しく理解し、特に規模の小さな事業者が納税義務の有無を正しく判定できるよう適切に指導や助言を行う必要がある。そこで、本問では法人設立の一形態として、法人が会社法に定める事後設立により事業の一部を分社化したケースを出題し、分割等があった場合の納税義務の免除の特例及び特定新規設立法人の納税義務の免除の特例を中心に、各種特例規定の適用順序も踏まえ、正しい納税義務の有無の判定が行えるかどうかを問う問題とした。
 消費税の納付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。また、軽減税率制度の実施による複数税率化に伴い、売上げ及び仕入れの双方について税率ごとの区分を行えるよう、軽減税率の適用範囲について正しく理解しておく必要がある。そこで、本問では軽減税率の適用対象取引が多く発生する業種である飲食店業を営む事業者における適用税率の判断について、税理士として適切な指導や助言を行えるかどうかを問う問題としている。さらに、近年増加している飲食料品の宅配(デリバリー)による販売やグルメサイトでの店内飲食の予約受付け、キャッシュレス決済による代金の決済及びインターネットによる音楽・映像配信の利用などを取り上げ、これらの取引の消費税法上の取扱いについても理解しているかを問う問題である。
 以上を踏まえ、本問は、以下の事項を中心として、納税義務の有無の判定及び納付すべき消費税額の算定をさせることで消費税法の総合的な理解度を問う問題である。

(1) 消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等及び同条第1項に掲げる分割等があった日を正しく理解した上で、新たに設立された法人の各事業年度(課税期間)について、適用が想定される納税義務の免除の特例判定を正しい適用順序で行えるかを問うている。
(2) 売上げについて、適用税率ごとの課税取引、非課税取引及び課税対象外(不課税)取引の判定を適正に行い、課税標準に対する消費税額及び課税売上割合が正しく算出されているかを問うている。
(3) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れ等の範囲、その時期及び適用税率、個別対応方式と一括比例配分方式による計算方法等について、正しく理解しているかを問うている。また、課税仕入れ等について、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに正しく区分を行うことができるかを問うている。
(4) 消費税法第2条第1項第8号の3に規定する電気通信利用役務の提供及び同項第8号の4に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供の定義を正しく理解した上で、これらの取引に係る内外判定の基準、課税方式及び仕入税額控除の適用関係を正しく理解しているかを問うている。

問2

中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から簡易課税制度は設けられている。本問は、複数の事業形態を営む場合の正しい事業区分、そして対価の返還等、貸倒れ及びその回収があった場合の計算方法と簡易課税制度全般にわたる基本的な理解を問う問題である。また、軽減税率対象品目及び複数税率の計算方法についても正しく理解しているかを問う問題である。

酒税法

第一問

問1

酒税は、その納税義務の発生を、原則として酒類がその製造場から移出されたとき又は保税地域から引き取られるときとしており、移出又は引取課税の建前をとっている。なぜなら、酒類が製造場から移出されたとき又は保税地域から引き取られるときは、酒類が既に消費の段階に入り、酒税の転嫁が可能な状態に到達したと推測されるからである。
 しかし、たとえ製造場から移出された又は保税地域から引き取られた酒類であっても、1当該酒類が他の酒類の原料として使用される場合、2外国へ輸出される目的で一定期間蔵置場に蔵置されるような場合がある。また、3自己の他の製造場又は蔵置場に蔵置のために移出する等、当該酒類が直ちに流通過程に入らない場合もある。これらの場合に、原則に従って直ちに課税原因を発生させることは、1の場合は二重課税の問題が生じ、2の場合は、究極的に免除すべき趣旨に反し、3の場合は、酒税の転嫁が行われる前に課税することとなり、消費課税の本旨にそぐわないこととなる。
 したがって、このように、まだ消費のための流通過程に入らない中間の段階において酒税を課すことは望ましくないので、移出又は引取課税の原則に対する例外として、酒類を法定の手続に従ってその製造場から移出したとき又は保税地域から引き取るときは、その移出又は引取に係る酒類に対する酒税を免除する規定を設けている。
 本問は、このような酒税を免除する特例のうち、未納税移出制度の趣旨を正しく理解しているかについて問う問題である。

問2

未納税移出の手続については、1事後申告制度と2事前承認制度とに分けられている。酒税法は、納税手続について自主的な申告納税制度を採用しているので、未納税移出についても原則として自主的な事後申告制度を採ることとし、酒税の取締り及び保全上の見地から特に必要があると認められる場合には、未納税移出について許可的性格をもつ承認制度が採用されている。
 このうち、未納税移出の事実について、酒税法の規定による納税申告書に併せて申告することを条件として、自由に移出することができる未納税移出の制度を事後申告制度といい、移入先の酒類の製造場は他の酒類製造者の酒類の製造場又は蔵置場に移入するためのもののうち、当該他の酒類製造者が当該移入をした後その商標を表示して更に移出することが明らかなものについては、事後申告制度による未納税移出が認められている。
 この際、当該未納税移出をした酒類製造者が、当該移出をした日の属する月分の納税申告書(期限内に提出するものに限る。)に、その酒類が未納税移出を認められる酒類に該当すること及びその酒類が酒税法に定める場所に移入されたことについての明細を記載した書類(未納税移出酒類移入明細書)を添付しなければならない。
 また、移入者においては、移入の翌月末日までに当該酒類の移入の目的、税率の適用区分及び当該区分ごとの数量等を記載した書類(未納税移入申告書)を、当該移入した場所の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。
 本問は、これらの手続について正しく理解しているかを問う問題である。

問3

未納税移出の確定手続は、問2の手続によるのが原則であるが、継続的に酒類を移入する場合で、移出する酒類製造場の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合等特定の場合には、移出をした酒類製造者において、移出をした日の属する月分の納税申告書に所定の事項を記載し、かつ、その酒類が未納税移出を認められる酒類に該当すること及びその酒類が酒税法に定める場所に移入されたことについての明細を帳簿で明らかにしているときは、特例として、問2の手続を要せずに未納税移出の規定が適用され、当該申告書の提出によって免除が確定する。
 本問は、この特例を受けるための手続について、正しく理解しているかを問う問題である。

問4

原料用とするための酒類についても、上記①事後申告制度として、問2の手続により未納税移出の適用を受けることが可能であるが、やむを得ない事情があるために、上記の「未納税移出酒類移入明細書」を納税申告書に添付することができないが、当該申告書の提出期限から3月以内に提出が予定されるときは、そのことにつき、その申告書の提出先の税務署長に届出を行い当該予定日までに、また、当該申告書の提出期限から3月を経過した日以後に提出が予定されている場合で、その申告書の提出先の税務署長の承認を受けたときは、税務署長の指定した期限までに、それぞれの書類を提出すればよいこととされている。
 本問は、問題文から状況を把握し、上記の宥恕規定を受けるための適切な手続について正しく理解しているかを問う問題である。

第二問

本問は酒税法の総合的な理解を問うため、事例を基に製造場から移出した酒類について、酒類の品目及びその判定理由並びにその酒類の課税標準数量に対する酒税額、控除を受けようとする酒税額、納付すべき酒税額までの算出を求める問題である。
 主なポイントは次のとおりである。

(1) 製法や性状等による酒類の分類
酒税法では、酒類の製法や性状等に着目して4つの種類に分類し、さらに17の品目に区分している。従量課税制度を採用している酒税制度においては、個々の酒類に対して、担税力に応じた負担を求めるため、酒類の製法等による種類・品目の分類により異なる税率が設けられている。

(2) 各品目の税率の計算方法
(1)の分類に従い同一の種類に属する酒類には、原則として同一の基本税率を適用することとなっている。各種類に分類される各品目の酒類のうち一定のものについては基本税率と異なる税率が適用されるため、各品目の税率の計算方法を理解していることが必要となる。

(3) 酒税の課税標準の規定や免税の規定
酒税の課税標準は酒類の製造場から移出し、又は保税地域から引き取る酒類の数量とされている。本問の課税標準の確定に当たっては、輸出する目的で酒類をその製造場から移出する場合の輸出免税の取扱いや、酒類等がその製造場において飲用されたときには、移出の事実がなくても酒類の移出があったとみなす例外規定を理解していることが必要となる。

(4) 租税特別措置法に定める酒税の税率の特例の規定
一定の政策的配慮から、租税特別措置法により税率の軽減措置が定められており、酒税額の算出には、その適用される要件や数量の計算方法を理解していることが必要となる。

(5) 戻入控除等の適用要件及び控除額の計算方法
課税移出され、又は保税地域から引き取られた酒類が酒類製造場に戻入れ又は移入される場合がある。戻入れされた酒類については、移出がなかったと同じ状態に戻るため、戻入れがあった日の属する月以後に提出期限の到来する納税申告書(期限内申告に限る。)に記載された酒税額からその酒類に対する酒税を控除することとなる。
 また、移入酒類についてはその酒類が製造方法申告書に従って酒類の原料として使用された場合、新たな酒類として再び課税されることとなるので、二重課税を避ける意味で、移入された酒類を酒類の原料として使用した際に、その日の属する月の翌月以後に提出期限の到来する納税申告書(期限内申告に限る。)に記載された酒税額からその酒類に対する酒税を控除することとなる。

 酒税額の算出に当たってはこれらの規定を正しく理解し、実際の事例に当てはめて計算できることが必要であり、実務においても重要であることから、その理解度を問う問題である。

国税徴収法

第一問

問1

国税の滞納整理においては、滞納者が督促を受けた場合において、その督促を受けた国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者に係る国税につき差押えをすることができるとしている(国税徴収法第47条)。
 その一方で、例外的に、督促を要しない国税の差押えを行うことができる場合についても定めている。
 具体的には、次の場合である。

(1) 繰上請求事由がある国税に係る繰上保全差押え(国税通則法第38条第3項)
(2) 国税通則法第11章(犯則事件の調査及び処分)又は刑事訴訟法の適用を受けた国税に係る保全差押え(国税徴収法第159条第1項)
(3) 繰上請求をした国税に係る差押え(国税徴収法第47条第1項第2号、国税通則法第38条第1項)
 本問は、督促を要しない国税の差押えを行うことができる場合についての正確な理解がポイントとなる。

問2

滞納処分の停止は、滞納者について、一定の要件に該当する場合には、滞納処分の執行を停止する制度である。
 具体的には、1無財産の場合、2生活を著しく窮迫させる場合、3所在及び財産がともに不明の場合に該当する事実があると認めるときは、職権により滞納処分の執行を停止することができる(国税徴収法第153条第1項)。
 また、滞納処分の執行を停止した場合の効果については、滞納処分の執行を停止した場合には差押えが禁止されるほか、差し押さえた財産がある場合にはその差押えを解除しなければならないこと、滞納処分の執行を停止することにより国税の徴収権の消滅時効が完成する前に納税義務が消滅すること又は消滅させることができること、滞納処分の執行が停止されている期間に対応する部分の延滞税が免除されるといったものがある。
 本問は、滞納処分の執行を停止することができる要件及び停止した場合の効果についての正確な理解がポイントとなる。

第二問

本問は、滞納整理における具体的な設例において、国税徴収法上の第二次納税義務による徴収方途及び徴収できる範囲について問う問題である。

(1) 税理士法人等が国税を滞納した場合において、その滞納国税について会社財産をもって不足すると認められるときは、無限責任社員はその滞納国税を納付する義務を負う(無限責任社員が2人以上あるときは、その社員相互間で連帯してその責任を負う)こととされている(国税徴収法第33条)。
(2) 法人が解散し、清算人がその法人の国税を納付しないで残余財産の分配等をしたことにより徴収不足となっているなど一定の要件に該当するときは、その清算人については分配等をした財産の価額を限度として、また、残余財産の分配等を受けた者はその受けた財産の価額を限度として、滞納に係る国税を納付する義務を負うこととされている(同法第34条)。
(3) 滞納者がその財産を無償又は著しく低い価額の対価で譲渡することにより徴収不足となっているなど一定の要件に該当する場合は、その財産を譲り受けた者は、その無償譲渡により受けた利益を限度(譲り受けた者が特殊関係者でないときは現に存する利益の限度)で、その滞納に係る国税を納付する義務を負うこととされている(同法第39条)。

問1

本問は、上記(1)の合名会社等の社員の第二次納税義務の制度の適用に関する問題であるところ、特に、新たに入社した社員及び退社した社員の責任についての正確な理解がポイントとなる。

問2

本問は、上記(2)の清算人等の第二次納税義務及び上記(3)の無償譲渡等の譲受人等の第二次納税義務の制度の適用に関する問題であるところ、特に、清算人等の第二次納税義務が適用できない場合でも、無償譲渡等の譲受人等の第二次納税義務の制度の適用ができることについての正確な理解がポイントとなる。

問3

本問は、上記(3)の無償譲渡等の譲受人等の第二次納税義務の制度の適用に関する問題であるところ、特に、求償債権の放棄に関して同制度の適用ができることについての正確な理解がポイントとなる。

住民税

第一問

問1

本問は、個人の住民税(市町村民税・道府県民税)における住宅借入金等特別税額控除についての理解を問う問題であり、主なポイントは以下のとおりである。

(1) 平成19年にいわゆる三位一体の改革により所得税から個人の住民税に3兆円規模の税源移譲が行われた際、中低所得者層の所得税額が減少し住宅ローン控除可能額を所得税から控除しきれなくなる問題に対応するため、個人の住民税においても税源移譲による所得税の減少額の範囲内において、その減収は地方特例交付金又は復興特別交付税により全額国費で補塡することを前提に、国策により控除を行うこととなったこと。
(2) 前年分の所得税について住宅借入金等特別税額控除の適用があった場合において、所得税の額から引き切れなかった税額を、個人の住民税の所得割の額から控除(控除限度額及び消費税の引上げを踏まえた拡充措置あり)すること。
(3) 所得税における住宅借入金等特別税額控除の適用期限が4年間延長されたのと同様に、個人の住民税における住宅借入金等特別税額控除についても、令和4年度税制改正において延長されたこと。

問2

本問は、個人の住民税における金融所得に係る課税方式等についての理解を問う問題であり、主なポイントは以下のとおりである。

(1) 特定配当等に係る課税方式については、申告不要(配当割)、申告分離課税及び申告総合課税が選択可能であり、特定株式等譲渡所得等に係る課税方式については、申告不要(株式等譲渡所得割)及び申告分離課税が選択可能であること。
(2) 上場株式等に係る譲渡損失の金額については、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得等の金額と損益通算をすることが可能であり、また、前年前3年内の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額については、上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額から控除することが可能であること。
(3) (1)については、現行制度では、所得税と個人の住民税において異なる課税方式を選択することが可能となっているが、令和4年度税制改正により、令和6年度分以降の個人の住民税については、個人の住民税の課税方式は所得税の課税方式と一致することとされており、また、(2)については、現行制度においては住民税申告書の提出により適用可能とされているが、令和4年度税制改正により、令和6年度以降は、確定申告書の提出によってのみ適用可能とされたこと。

第二問

地方税法における個人の住民税は、均等割、所得割、利子割、配当割及び株式等譲渡所得割が課されることとされている。このうち、所得割については、所得税法の所得計算等により算出した総所得金額等に、地方税法の所得控除、税額控除等を適用し、課税総所得金額及び所得割の税額を算出することとされている。
 本問は、個人の住民税について、所得税法の所得計算、地方税法の所得控除、税額控除等の計算、現年分として特別徴収されることとなる税額の計算等、個人の住民税の総合的な理解を問う問題であり、その主なポイントは次のとおりである。

(1) 退職所得の課税の特例の計算
(2) 譲渡所得の計算
(3) 公的年金等にかかる雑所得の計算
(4) 青色事業専従者給与の必要経費の適用判定
(5) 居住用財産の譲渡にかかる特別控除の計算
(6) 寄附金税額控除(一般、特例)の計算
(7) 基礎控除の適用判定

事業税

第一問

問1

個人事業税の課税標準の算定については、次のとおり、所得税の計算の例によらないもの及び各種の控除に係る規定がある。所得税の計算の例によらないものについては、下記の(1)1~5があり、それらを正しく理解できているか、また、各種の控除についても、下記の(2)1~5を網羅的に解答できるかがポイントである。

(1) 所得税の計算の例によらないもの
1 土地の譲渡等に係る課税の特例の不適用
2 医業等を行う個人の社会保険診療報酬の総収入金額、必要経費不算入
3 青色事業専従者の給与額の必要経費算入
3 事業専従者の給与額の必要経費算入
3 外国所得税額の必要経費算入
(2) 各種の控除
1 青色申告書を提出している年分の損失の繰越控除
2 白色申告書を提出している年分の被災事業用資産の損失の繰越控除
3 事業用資産の譲渡損失の控除
3 青色申告書を提出している年分の事業用資産の譲渡損失の繰越控除
3 事業主控除

問2

事業税に係る延滞金の基本的な制度の内容及び外形標準課税対象法人に係る徴収猶予について、具体的な事例への当てはめを通じて正しく理解しているかを問う問題である。資料から当該法人が外形標準課税対象法人独自の徴収猶予の適用を受けることで延滞金を軽減できるということを読み取れるかがポイントである。

(1) 納期限後に納付する場合の延滞金
納期限後に法人事業税額を納付する場合には、その税額に納期限の翌日から納付の日までの期間の日数に応じ、一定の割合を乗じて計算した延滞金額が加算される。

(2) 外形標準課税対象法人に係る法人事業税の徴収猶予の適用要件
当該事業年度(設立5年以内に限る。)の所得がない法人で、著しい新規性を有する技術又は高度な技術を利用した事業活動を行っており、当該事業活動が地域経済の発展に寄与すると認められる場合などに適用される。

(3) 外形標準課税対象法人に係る法人事業税の徴収が猶予された場合の延滞金の免除
(2)の徴収猶予が適用された場合、延滞金のうち、当該猶予に係る期間に対応する部分の金額に2分の1に相当する金額について免除される。

第二問

問1

地方税法第72条の2第1項第1号に掲げる事業と同項第3号に掲げる事業とを併せて行う資本金1億円超の法人の事業税額の算定について、正しく理解しているかを問う問題であり、主なポイントは次のとおりである。

(1) 発電事業と製造業の課税方式
発電事業は地方税法第72条の2第1項第3号に掲げる事業に該当し、収入割、付加価値割及び資本割の合算額により課税される一方、製造業は同項第1号に掲げる事業であり、付加価値割、資本割及び所得割の合算額により課税される。両者の違いを理解し、正しく算定できるかがポイントとなる。

(2) 収入割の課税標準の算定方法
収入金額から控除される項目を理解し、正しく算定できるかがポイントとなる。

(3) 所得割の課税標準の算定方法
原則として法人税の所得の計算の例によりながら、例外として法人税の所得の計算の例によらない項目を正しく算定できるかがポイントとなる。

(4) 付加価値割の課税標準の算定方法
付加価値割の課税標準である付加価値額は、収益配分額(報酬給与額、純支払利子及び純支払賃借料の合計額)と単年度損益との合計額から雇用安定控除額を控除した金額となる。資料を基にこれらの項目について正しく算定できるかがポイントとなる。

(5) 資本割の課税標準の算定方法
課税標準について、資料を基に正しく算定した上、事業ごとの額について適切にあん分できるかがポイントとなる。

(6) 分割基準及び分割課税標準額の算定方法
適切な分割基準を用い、資料から正しい分割基準の数値及び分割課税標準額を算出できるかがポイントとなる。

(7) 税額の算定
各県の適切な税率を用い、各県の税額を正しく算定できるかがポイントとなる。

問2

特定内国法人の事業税額の算定について正しく理解しているかを問う問題であり、主なポイントは次のとおりである。

(1) 所得割の課税標準の算定方法
資料から所得及び外国の法人税等の額(以下「外国税額」という。)を、それぞれ外国の事業に帰属する部分とそれ以外の部分に整理し、また、外国税額のうち法人税の所得の計算において損金の額に算入された分などを正しく処理できるかがポイントとなる。

(2) 課税標準の分割基準及び分割課税標準額の算定方法
適切な分割基準を用い、資料から正しい分割基準の数値及び分割課税標準額を算出できるかがポイントとなる。

(3) 税額の算定
各県の適切な税率を用い、各県の税額を正しく算定できるかがポイントとなる。

固定資産税

第一問

問1

本問は、市町村税である固定資産税における都道府県の関わりについて、基本的な理解を問う問題である。
 固定資産税は、市町村税であるため、本来その課税標準額の決定から賦課徴収に至るまで、市町村において行うこととされているが、その例外として、
・船舶、車両その他の移動性償却資産又は可動性償却資産で二以上の市町村にわたって使用されるもの
・鉄道、軌道、発電、送電、配電若しくは電気通信の用に供する固定資産又は二以上の市町村にわたって所在する固定資産で、その全体を一の固定資産として評価しなければ適正な評価ができないと認められるもの
のうち総務大臣が指定するものについては、関係市町村が同一道府県内にある場合においては、道府県知事が課税標準額を決定してこれを関係市町村に配分することとされている。
 また、課税標準額が法律で定められた一定の額を超える大規模償却資産について、当該超える部分については、道府県が課税権を有することとされており、こうした例外規定についての理解がポイントとなる。
 このほか、固定資産の評価に関する援助(固定資産評価基準について助言をすること、固定資産評価員への研修を行うこと等)や固定資産の価格等の修正に関する勧告を行う役割を有していることへの理解もポイントとなる。

問2

本問は、住宅用地特例についての理解を問う問題である。
 地方税法においては、住宅政策上の見地から、住宅用地について税負担の軽減を図るため、固定資産税の課税標準の特例を設けており、本問においては、主に次の点への理解がポイントとなる。

(1) 併用住宅については、家屋の床面積に占める居住部分の割合により、住宅用地特例の適用を受ける住宅用地の面積が異なること。
(2) 専ら保養の用に供されている家屋であっても、毎月1日以上の居住(これと同程度の居住を含む。)の用に供されている場合には、住宅用地特例が適用されること。
(3) 空家等対策の推進に関する特別措置法に規定する特定空家等の敷地については、除却、修繕等必要な措置をとることについて勧告を受けた場合に、住宅用地特例が適用されなくなるものであること。

第二問

本問は、税額の計算問題を通して固定資産税制度の総合的な理解力を問う問題である。
 問1は、区分所有家屋及び区分所有家屋の敷地の用に供されている土地の税額の計算についての理解を問う問題であり、問2は償却資産(移動性償却資産等)についての理解を問う問題である。

問1

本問は、住宅用地に適用される特例措置及び新築住宅に適用される特例措置を理解した上で税額を適正に算出できるか、総合的な理解を問う問題である。
 住宅用地特例の適用に当たっては、併用住宅の場合、家屋の床面積に占める居住部分の割合により特例の適用を受ける住宅用地の面積が異なること、新築住宅特例の適用に当たっては、床面積要件や居住割合要件の充足を確認した上で120㎡相当分を限度に固定資産税が減額されること等を踏まえて税額を算出する必要がある。

※ 本問につきましては、土地に関する資料【資料Ⅰ】において、「小規模住宅用地」及び「一般住宅用地」の令和3年度課税標準額を設定すべきところ、「一般住宅用地」の令和3年度課税標準額が設定されていなかったことから、土地に係る固定資産税額を算出することができない問題となっていました。

 本問の採点に当たっては、受験者の不利とならないように配慮することとしています。

 「令和4年度(第72回)税理士試験における試験問題の誤りについて(PDF/64KB)

問2

償却資産の課税標準額については、資産ごとに異なる耐用年数に基づく減価償却、課税標準の特例措置の適用があるほか、移動性・可動性償却資産については配分規則に基づき関係市町村への価格の配分が行われる。
 本問は、航空機及び鉄道・車両の税額算定を通じて、これらの規定の適用に関する基本的な理解を問うものである。
 特に航空機については、資料で与えられた条件に基づき適切に課税標準の特例措置を適用するとともに、固定資産の価格の各市への配分に当たっては、一の飛行場が二以上の市町村にわたり所在している場合の配分方法に留意するなど、与えられた資料に基づき適切に各市への配分を計算する必要がある。 

今日の「愛され妻」

インフルエンザ予防接種を予約しました。

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